第12回 父と娘の時間

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 江戸の佐賀藩邸と川越藩邸はお隣同士ですが、直正公と貢姫さまが会う機会はそう多くはありませんでした。そのため、直正公は貢姫さまと会った時はその嬉しさをお手紙に綴られていました。

ゆっくり会えてうれしい

【翻刻】
「一寸と申遣候、又々鬱陶敷天気合候得共、先々御揃、何方之御障りもなく、めて度存候、此間ハゆるゆる対めんいたし怡存候、扨、左之品々国ゟ参り候付、遣候
一、鱲子  一、木ノ酢  一、寒菊
右申遣候間、如此御座候、十八日を楽しみ居候
【現代語訳】
この間はゆっくりと対面出来て嬉しく思いました。さて、これらの品々は佐賀より到着しましたので差し上げます。一カラスミ、一木の酢(キノス)、一寒菊(菓子)。右のことをお伝えします。18日を楽しみにしています。」

 これは安政6年(1859)11月11日のお手紙です。書中の「この間」とは、同月8日に直正公が川越藩邸に赴いた時のことだと思われます。その時の様子が別の日のお手紙にこう記されています。

【翻刻】
「昨日は参上いたし候処、ゆるゆる対めんいたし、殊ニ色々御馳走乍例大満ふく、大酔いたし参らせ候」
【現代語訳】
「昨日は(川越藩邸に)お邪魔したところ、ゆっくりと対面でき、特に色々なご馳走にはいつものことながら大満腹、大酔しました。」

 この日、直正公はご馳走を満腹になるまで召し上がり、お酒もたくさん呑んだご様子です。貢姫さまと夫・直侯公に会えたことがとても嬉しかったのでしょうね。11日付のお手紙の最後には「十八日を楽しみにしています」と締めくくられています。その18日にお二人で会った時の様子がその翌日19日のお手紙に書かれています。
 

佐賀藩邸での時間

 同月18日、佐賀藩邸に貢姫さまがやってきました。その時の気持ちを直正公はこう記されています。

【翻刻】
「左様候得は、昨日は久振ニ而ゆるゆる対面いたし、無此上怡存候、しかし何之慰も無之、嘸々一日たいくつと存まいらせ候、右ニ付細々申遣、却而気のとくニ存候、さりなから、皆々ゆるゆると対面いたし候事ハ、無此上御嬉敷存参らせ候
【現代語訳】
昨日は久しぶりにゆっくりと対面でき、この上なく嬉しく思いました。しかし何の慰み事もなかったため、さぞかし一日退屈だったのではと思っています。右のことについて細やかに言葉を伝えてくださり、かえって気の毒に思いました。しかしながら皆でゆっくりと会えたことはこの上なく嬉しく思います。

 お二人が川越藩邸で会ってから1週間後のことですが、直正公にとっては長い日々に感じたのでしょうか。また、佐賀藩邸で会えたことで貢姫さまが帰省したような気持ちになったのかもしれません。愛娘と昔からのお付きだけで気兼ねなく過ごされた御様子がお手紙から感じられます。
 

愛娘への手紙

 今回で「愛娘への手紙」の連載は最後になりますが、直正公から貢姫さまへのお手紙は今回ご紹介した以外にもたくさん伝わっています。直正公はある日のお手紙の中で「(お手紙を読んでいると貢姫さまと)対面している気持ちです」と述べられています。お二人の時代とはまた違いますが、昨今も思うように人に会えない状況が続いています。そんな時は、送る相手のことを思いながらお手紙を書いてみるのもいいかもしれませんね。

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