鍋島紀久子所用 昭和6年(1931)
フランス・プレイエル社製 ラベル印字「77F715」「189816」
このアップライトピアノは、昭和6年(1931)、朝香宮鳩彦王第一王女 紀久子様(1911-89)が鍋島直泰様(12代鍋島直映嗣子)に降嫁された際の婚礼調度のひとつ。300件を超える婚礼調度や婚儀の費用等を書き上げた「紀久子女王殿下御慶事書類附録」(同年5月作成)の「西洋家具」項に「御ピアノ 壱台」と記載されるものに相当する。同書には、ピアノは「マークヲ撰ハス音ノ良キモノ 仏国ヘ注文 一〇〇〇(円)」と記されている。これより先、鳩彦王は大正11年にパリへ留学し、允子妃も当地に赴いていた(ともに大正14年帰国)。
メーカーにこだわらず音質重視で注文されたこのピアノは、フランスのプレイエル社製。プレイエル社は、ハイドンに音楽を学んだイグナーツ・プレイエル(Ignace Joseph Pleyel) により1807年パリに創設された。フランスにおけるもっとも優れたピアノのひとつと言われ、「ピアノの詩人」と称されるショパンは同社のピアノを生涯愛用し続けたという。
紀久子様の婚礼調度は昭和6年5月9日に鍋島邸に送られ、庭に設置された仮倉庫で12日の婚儀が終了するまで保管された。同年に撮影された写真には、鍋島直泰・紀久子夫妻が住んだ神山邸(渋谷松濤)の居間に譜面がのったプレイエルが写されている。戦後は大磯の別邸に置かれた。
その後、鍋島報效会(徴古館)に寄贈され、ユーロピアノ(東京)に修復を依頼した。取り替え部品はヨーロッパに出向き、できる限り当時の部品を調達し、2001年に往時の音色に復元された。
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