もえぎじみずわつゆしばもようすりはく
江戸時代中期(18世紀前半) 3代藩主鍋島綱茂所用 繻子地・裏は茶平絹地 丈150.2cm 裄69.5cm
摺箔は、女役に用いられる能装束の一種。深みのある萌黄色の布地の上から金箔と銀箔をこすりつける摺箔の技法で二種の模様を段替わりに表す。金箔で細い三日月形の芝草に玉状の露がついた様子を、銀箔で同心円状の水輪模様を表し、露の雫が落ちてできた水の波紋をイメージさせる。摺箔は着付(下に着る小袖)として使われるため、本来は襟元しか見えないが、演じる役によっては上半身まで見えることもある。
10代藩主鍋島直正の時代にあたる天保14年(1843)に、歴代の能面や能装束などをまとめた「御能御面其外御道具」(鍋072-2)という御道具帳が残されている。そこに「地木賊薄うつ巻段替」という模様の「御箔」(摺箔)が挙げられている。木賊(とくさ)色は濃い緑色を指し、芝を薄(すすき)、水輪模様を渦巻とみなしたもので、これが本品にあたると考えられる。同書によれば、本品は歴代佐賀藩主の中で特に能楽の嗜みが深かった3代藩主鍋島綱茂の所用と伝える。