鍋島家に伝わった国宝「催馬楽譜」は、平安時代の宮廷社会で盛んだった歌謡・催馬楽の楽譜です。わが国最古の写本として音楽史上において貴重なばかりでなく、「宗尊親王筆」との伝承をもつように、名筆の手になる優美な書も見どころです。このほか、鍋島家には重要文化財「東遊歌神楽歌」も伝わり、またその存在が展覧会直前に確認された「東遊歌風俗歌」も本展で初公開しました。この風俗歌譜の出現により、鍋島家には「四譜」と総称される古代歌謡の全ジャンル(催馬楽・東遊歌・神楽歌・風俗歌)の譜が伝わっていたことが分かりました。
さて江戸時代には、武家の式楽として能楽が重視されていたことは広く知られていますが、公家によって連綿と守られてきた雅楽も、武家がたしなむべき文事のひとつとして受容されました。鍋島家では、10代鍋島直正・11代鍋島直大が雅楽に深く傾倒した事が知られています。とくに直大は、宮中の祭典や雅楽などを掌る式部職の初代長官を務めており、自ら作曲も手掛け、栄子夫人や子供たちなど御一家でも演奏を楽しんでいたようです。本展では、鍋島家伝来の雅楽器や楽譜などを通して、雅楽の古譜が鍋島家に伝わった背景、鍋島家における雅楽の世界をご紹介しました。
*№4407~16の伝来:10代鍋島直正 → 貢姫 → 11代鍋島直大