梨子地稲穂蒔絵硯箱
なしじいなほまきえすずりばこ
13代鍋島直泰夫人紀久子が昭和6年1月に結婚のお祝いとして皇后陛下(香淳皇后、紀久子夫人の従姉)から拝領した硯箱。方形、被蓋造で縁には銀覆輪を廻らせている。蓋表は黒漆地に平目粉を粗密に蒔き、霞のなかでたわわに実った頭を垂れる稲穂を、蓋裏と見込みは梨子地に初夏の青田風景を、金銀の平蒔絵・高蒔絵・研出蒔絵などの技法を用いて表す。筆や墨挟み、刀子や錐にまで稲を描き、硯に水を注ぐ水滴は田んぼに舞い降りる白鷺を象るなど、硯箱全体で初夏から秋にかけての稲田風景を表している。稲穂には豊作・豊穣というおめでたい意味があり、皇后陛下からの結婚のお祝いにふさわしい、細部まで意を尽くした重厚な硯箱といえる。