太平琴「春イ」
たいへいきん「しゅんい」
箱書に「太平琴」とあるこの琴は、形状も大きさも全国的にも類をみない独特のものである。弦が6弦で琴柱が枝折である点は和琴(わごん)に共通する。弦の張り方は楽箏と一緒だが、弦の太さが異なっている。本体は一枚板で音穴と下樋はなく、竜手、竜趾、竜角部には竹を用いる。竜頭には「春イ(さんずいに猗)」との金字銘がある。磯部片面と竜背部の陰刻銘により、文明年間(1469~87)築の勢福寺城門の古柱を用いてこの琴を製作し、「春イ」の銘は藩士・百武兼寛が今泉千春に依頼してつけたことが分かる。「春イ」とは「春のさざ波」の意。琴爪、琴柱、「太平琴詠曲譜」、巻物添え。明治7年(1874)に百武安太郎(兼行/11代鍋島直大の側近で洋画家)から鍋島家へ献上された。